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ATAMI海峯楼(水/ガラス)

2015/05/06 GW最終日は静岡県熱海市に建築を見に行きました。

この日訪れたのは、隈研吾さん設計の「水/ガラス」とブルーノ・タウトさんが地下室を設計した「旧日向別邸」の2箇所です。

 

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熱海の海が一望できる高級温泉旅館 - ATAMI 海峯楼

 

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旧日向別邸

 

 今回記事にしたいのは、隈さんの建築なのですが、これを語るには隣に建つタウトさんの建築を先にご紹介する必要があるので、少し記載させてください。

 

 ブルーノ・タウトは、20世紀初頭のドイツの建築家で、日本のモダニズム建築の起死回生の手立てとして日本インターナショナル建築会と呼ばれる建築家集団に呼ばれ、1933年日本に降り立ちました。

この年は、まさにナチス政権がドイツを支配していた時代で、タウトはドイツに戻らず日本で安住していた節もありますが、何より彼は日本で京都の「桂離宮」に感銘を受け、日本の建築をヨーロッパ人から見た感覚で解き明かしていきました。

 

 その桂離宮伊勢神宮などの日本の様式美を意識して設計された旧日向別邸は、彼の日本で現存する唯一の建築物です。

当時からル・コルビジュエやミース・ファン・デル・ローエが脚光を浴び、モダン建築家の代表とされてきました。そんな中、突然やってきたドイツ人が日本風の建築を設計したとて、良い評価は得られなかったのです。

 

 しかし、この建築には日本の様式を巧みに操作し設計された空間が広がっていて、体感することで分かる魅力に溢れています。

写真撮影が禁止されていたため公式サイトから1枚お借りしますが、彼はこの設計で桂離宮のような自然と人間との関係を作りたいと思い、大きな開口部を持つ建物全体が縁側のような建築を考えました。深い庇がかかった開口部から見る一面の海は切り取られた一枚の絵画のように感じられました。

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重要文化財 ブルーノ・タウト「熱海の家」 旧日向別邸 (きゅうひゅうがべってい)|熱海市役所

 

 こうして彼は、施主から「好きに設計して良い」と言われたこの建築で思う存分、自らの思う日本の様式美を表現したのでした。

 

 

 そして、この建築のすぐ横の敷地が与えられた隈さん。タウトのこんな建築が熱海にあるなんて思いも寄らず、大変驚かれたそうです。

そこでどのような建物を建てようかと考えた時、せっかくだから自分も縁側をやろう、と思われたのが「水/ガラス」の始まりのようです。

 

 この「水/ガラス」は、単体ではなく海峯楼というホテルの中に作られていてバルコニーとして使用されています。

元は来賓を招く施設として設計されただけあって、内装は実に豪華で厳かな雰囲気を醸し出していました。

 

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エントランス。入ったところが駐車場になっていて、入り口はその奥にあります。(従業員さんにビビって写真撮れませんでした。。)

 

 そして、本題のゲストルーム。

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かっこいい。。ただ、それだけ。

・・・じゃなくて、考察をしなければ!

 先ほど「自分も縁側をやろう」と隈さんが思われた、という話を書きましたが、どこが縁側かというとこの水盤に張られた「水」なのです。

 

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なぜ水なのかというと、一つは普通の縁側にある手すりなどの邪魔なものをなくしてすっきりとさせたかったから。旧日向別邸にも手すりはありません。

 

 また、奥に広がる海とこの水の縁側が一体化してくると、中にいる人はまるで海の上に浮いているような感覚、自然との一体感を感じることが出来るのではないかと考えました。

ここにも、タウトさんの「自然と人間の関係を作りたい」という思想が隈さんにより再表現されていると思います。

 

 もう一つの共通点は、大きな庇です。

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外からも見える庇。

 庇というよりルーバーと呼ぶと思いますが、本来ガラスで建築をする場合、庇を深く取ることはあまりしません。

ではどうしてかというと、霞の中で水の縁側だけでなく空と庇も溶け合って、曖昧な空間が生まれることを狙ったからだそうです。だから、隈さん本人は、晴天で海と空が美しい時よりも、曇っていて靄がかった時の方がここではお好きなようです。

 

 深い庇といってもステンレスのルーバーは、暗い影を作ることなく眩しい直射日光だけを遮り、内部を心地よい光で包んでくれています。

天井照明がないため、夜は光床からの光だけで照らされるそうです。夏場は熱海の海上花火を目の前に見ることが出来る特等席に。大切な人を連れて行かれてはいかがでしょうか。。(遠い目)

 

 世間的に知られていることか分かりませんが、隈さんはご自分で家具の設計もしています。

金沢21世紀美術館 - ぷらっとりっぷSANAA妹島和世さんがイスを設計しているという話を書きましたが、建築家は自分の設計した建築に入れる家具はピッタリと合ったものを!と思うと家具自体を作ってしまうのですかね。

 

 隈さんの場合は、著書の中で「建築をつくることは、家具をつくることを含む」と当たり前のように考えていた、とおっしゃっていました。

 

そして「水/ガラス」のために設計されたのが、こちらのイス。

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タイトルは「Glass Chair」。

 このイスが設計される時、直線やフラットな面を多用する「幾何学的」なデザインと「薄い面」や「細い線」というもので構成しようと考えられたそうです。

それは、座面や背板の薄さによって「体と環境」の相互作用を促せると考えたからであり、薄さを極めた結果、ガラスという硬いマテリアルに到達してしまいました。

 

 この建築が建てられたのは、1995年。隈さんにとって2つ目の住宅設計でした。ですから、まだ実験段階のしかも初期段階であり、大切な「身体との馴染み方」を意識しきれなかったところがあったと語られていました。

どんな人にもデビュー当時があり、試行錯誤を繰り返して意識の探求・発見をし自分らしさを見出すのかと、また妙な考えを巡らしました。。

 

 ATAMI海峯楼はホテルなので通常は宿泊しなければいけないのかもしれませんが、事前に電話で見学を申し込めば従業員さん立ち会いのもと見学させて頂くことが可能です。

隈さんの珍しい初期建築で、体感して分かることの多い建物ですので、機会があったら訪れて頂きたいです。ぜひ、ブルーノ・タウトさんの「旧日向別邸」も一緒にご覧ください。

 

 今週のお題が「最近おもしろかった本」だったので、最近読み終わった隈研吾さんの「住宅らしさ」に掲載されていた建築についてせっかくだから書いてみようと思い、この建物を今回は選びました。

www.amazon.co.jp

 

 最後にもう少し。

海峯楼の奥にはちょこんと竹が植えられていました。定かではありませんが、タウトさんが竹を建築に多用していたので、これもその引用なのかなと思いました。

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それではこの辺で。