秋野不矩美術館
2015/05/02 日帰りで静岡県浜松市まで行ってきました。その目的は、秋野不矩美術館。
最近、この美術館の設計者であります藤森照信さんの建築にはまっていまして、どうしても訪れたく、浜松に住む友人に車を出してもらって、いざ出発!
浜松駅から車で走ること40分。最寄りの天竜二俣駅から向かえば徒歩10分程度です。
美術館が立つ丘の下にある駐車場に車を止め、歩いて美術館に向かいます。
看板は石にはめ込まれた形で、秋野不矩の字はご本人の直筆。
下から見上げると砦のよう。
壁の板は地元産のスギ材で、ツルツルとした表面。のちに藤森さんは、もう少し荒く仕上げたほうが良かったかもと述べられていました。
美術館をぐるーっと遠回りして向かうアプローチ。
電柱や排水溝、手すりに至るまで、すべて自然素材で作られていること、お気づきでしょうか?看板があったあたりから美術館の入り口まで、なるべくコンクリートや金属といったマテリアルが目に入らないよう計画されています。
手作りで設置された手すり。
古くなり反りが出て割れてしまっているところもありましたが、それも時の流れを感じられる効果を生んでいると思います。
木の板が立てかけられた美術館前の壁面。
なんとなしに見ていましたが、近づいてみると・・・
後ろにはコンクリートの壁面が。斜面を押えるコンクリートが見えないよう、わざわざ作られたものでした。面白い。
こちらもよーく見てみると・・・本当はマンホールがあるところなのです。
綺麗に石で隠されていて、とても芸が細かく、美術館に入る前から自然素材の扱い方に感動させられテンションマックス!ほかにも何か仕掛けはないのか隅々まで観察したくなります。
こうしてやっと美術館に到着!
長方形のボリュームに正方形の小さなボリュームがくっついた平面構成になっています。
このふたつの基本形を用いたのは、展示室のあり方を根本から考え直し導き出された、単純かつ明瞭な基本形により、長方形の廊下状の片面展示で動線の画一化、そして正方形の4面を観客は中央に立ち順に眺めることが出来るのです。
中に入る前にもうひとつ。
こちらの雨樋、初めは普通のタテ樋が計画されていましたが、工事中に目障りになることがわかり、急遽手作りされたそう。
ロンシャン礼拝堂の象の鼻の木製版だそうです。
これがロンシャンの象の鼻。(撮影:一昨年の私)藤森さんのこういう洒落大好きだなー。
受付を済ませ、中に入ります。その際、靴を脱ぎスリッパになります。
入り口側を見た内観。
柱・梁がむき出しで構造がそのままデザインになっているところも素敵です。
室内に照明は一応ありますが、明かりは主にひとつの天窓から。
2階の窓から見下ろした1階。
柱・梁は丸太をチェーンソーで削り、バーナーで燃やしてから組み立てられたもの。足元に向かうにつれて木そのものの色になっているのも注目したいところです。
この写真からわかるように、展示室に入る時は履き変えたスリッパすら脱ぎ、裸足(靴下)で展示品を鑑賞するシステムになっています。
というのも、藤森さんの設計する際に「素足になる美術館」というコンセプトを掲げられたからであります。
まずこの美術館は常設で秋野不矩という静岡県天竜市出身の画家の作品を展示する美術館であることから、どのような建築空間が秋野さんの絵にふさわしいのか、これが求められるわけです。
秋野さんの絵は「いきものがもつよごれを、心の目のフィルターで濾しに濾している」と司馬遼太郎に言わしめるほど、澄んでいて清らかな印象を与えられるのです。
秋野さんご本人から依頼を受けた藤森さんは、秋野さんの展覧会をご覧になった際、絵を鑑賞して「粒の大きい岩塩具がサッサッサッと勢いよく引かれている」という印象を受け、その様を一番よく見せるには・・・と内装を考えられたそうです。
そうして、思い浮かんだのが白い仕上げ。それもツルツルの白ではなくて、吸光性の白、肌触りのある白、自然素材の白だということ。その条件を満たすのは素材は、漆喰と白大理石のふたつだと考えをまとめられたそうです。
その漆喰壁には、藁が練りこまれている。
先に記載した『素足になる美術館』というのは、「秋野さんの絵の汚れのなさと土足は合わない、あの清掃感を味わうには、見る人は裸になるのが一番だが、そうもいかないから、せめて裸足にしたい」というお考えからで、結果的に他にあまり類を見ない靴を脱ぐ美術館になりました。
この他にこの美術館で意識されているのは、簡潔に述べると「明と暗」「白と黒」の対比関係です。
まず「明と暗」というのは、主に玄関ホールと展示室の関係に現れ、一般的には玄関ホールは美術館の顔となり明るく主役のように扱われることが多い。そのことに疑問を持った藤森さんは、あくまでも主役は秋野さんの絵画であり、玄関ホールは中間的な役割を持たせようと考えました。
また、展示室に入った時の、暗い洞窟に足を踏み入れたような感覚を和らげる為、玄関ホールの照度を下げ、また展示室の閉鎖感をなくす為、より閉鎖的な空間を作り上げたのです。
言葉だけではどうも心地の悪い感覚を受けますが、実際は美術館特有の緊張感や厳かな印象がなく、親しみやすく気持ちの良い空間が広がっているように感じました。
「白と黒」というのは、先ほども記載した柱の仕上げのことで、展示室の漆喰と大理石の白い世界と対照的に、玄関ホールはそっけなく禁欲的に表現しようと黒く炭化させました。そこに白と黒の精神性が込められているそうです。
ひとつ特記させて頂きたいのが、設備の扱い方です。
中に入っても外構と同じく人工的なものを見せない工夫が随所に施されていて、徹底されたデザインに感心させられました。
エアコンの吹き出し口。音がしなかったら気がつかなかった。。
センサーもこの通り。
展示室のあり方、光・色で与える感覚、細部に至るまですべてに藤森さんらしい丁寧な作り込みがなされていて、歩みを進めるたびに新しい発見があり楽しい美術館でした。
地域の人たちにもこの美術館が愛されていることが伝わってきましたし、近代的な美術館とは違った良さを感じること出来ました。
せっかく来たのだからと、浜松の他の観光地も回ってもらうことになり、最後に訪れたのが、nicoe(ニコエ)という商業施設。
裏庭にある谷尻誠さん設計の「くるりの森」を見たくて訪れたのですが、この建物自体も本当に面白くて楽しかったです。
「くるりの森」にはネットがかけられていて、子供が自由に遊べるジャングルジムのようになっています。
構造が訳分かりません。曲線の端っこが見当たらなかったから、全部繋がっているのでしょう。
ここで遠い記憶を遡り・・・この建築の模型見たことある!と思い出しました。
本物、模型のまんま。もう少し早くに行って、子供が実際に遊んでいるところを見てみたかったです。。
この「くるりの森」にはストーリーがあって、いずれは集合住宅のようにならないかと谷尻さんがおっしゃっていたのをにわかに覚えています。
これは模型のように実現できるのかな・・・。
GWに弾丸で訪れたにも関わらず、美術館まで送ってくれて観光案内までしてくれた友人には感謝の気持ちでいっぱいです。静岡名物のさわやかの「げんこつハンバーグ」や「うなぎパイファクトリー」での工場見学も浜松にお越しの際は是非!
建築充もして楽しいGWの1日でありました。